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「どうした、急に」
「だって、一弥さんが合コンって、なんだか似合わないから。芹沢さんに誘われたんですか?」
「いや。芹沢が合コンを開くと聞いて、俺の方から参加を申し込んだ」
「どうして?」
「それは、芹沢が……」
と言いかけて、一弥は黙ってしまった。
「一弥さん?」
「いや、なんでもない。単に、その日は予定が空いていたからそうすることにしたんだ」
「そうですか」
渚が頷いたところで、デザートが運ばれてきた。イルカの形のサブレが乗ったフルーツパフェだ。
「わあ、かわいいですね!」
「ここに来たら、このパフェを頼もうと思っていたんだ。渚が喜ぶのではと思ってな」
「わたしですか? 一弥さんじゃなくて?」
ちょっといたずらっぽく言ってみると、一弥が少し気まずそうな顔をする。どうやら、照れくさいときにこういう顔をするらしい。
「冗談ですよ。すごく嬉しいです。いただきます」
イルカのサブレは別の皿によけて、最後にいただくことにする。一弥も同じようにして、パフェを食べはじめた。
「おいしい。このレストラン、何を頼んでもおいしいですね」
「本当だな。このイルカのサブレはショップで売っているらしい。土産に買って帰ろう」
「いいですね!」
「しかし、この水族館は海水魚の展示フロアもなかなかよかった。渚の解説のおかげでより楽しめた。おまえはイルカだけではなく、魚にも詳しいんだな」
「八年間も水族館で働いてたら、自然と自分の担当以外の生き物のことも詳しくなりますよ」
「おまえは確か、十八歳で水族館に就職したんだったな。芹沢が言っていた」
「はい」渚は頷いた。
「でも、高校生の頃からバイトしてたから、それを含めたらもっと長いかも」
「進路を決めるときは、進学は考えなかったのか? 勤勉なおまえのことだ、きっといい成績をおさめただろう」
そんな風に言われたのははじめてだったので、渚は少し照れくさくなった。
「高校を出たら就職しようって、ずっと前から決めてたんです。わたしの実家、兄弟が多くて。わたしの下に弟が二人と、妹も一人いるんです。弟たちのこと考えると、わたしが働くのが一番だろうなって思って。就職活動をはじめようと思ってた時期に、当時イルカチームのリーダーだった芹沢さんが、飼育員として一緒に働かないかって声をかけてくださったんです」
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