1章「おまえ、俺の女になれ」

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 見ると、声の主である一弥が両腕を胸の前で組み、軽くあごを上げた体勢でこちらを見つめていた。 (すごい。なんて……偉そうな態度)  あまりに偉そうなので、思わず返事も忘れて見入っていると、一弥が再び口を開く。 「おい。聞こえていないのか、見崎渚」  名前を呼ばれて、ようやく自分に声をかけられていたことに気づく。 「あっ……すみません」 「何をぼうっとしている。疲れているのか」 「いえ……、東條さんがすごく偉そうだから、驚いていました」 「俺はこれがニュートラルだ」 「これでニュートラルなんですか」 「ああ。しかし気を悪くしたなら謝る」  と、一弥が言うので、渚は「いや、大丈夫です」と慌てて顔の前で手を振った。 「偉そうだから嫌とかじゃなくて、偉そうなのがすごく似合ってるなって思ったんです」 「似合ってる?」 「はい。堂に入ってるというか」 「……。それは褒められていると思っていいのか?」 「はい。たぶん」  そう答えると、一弥の表情がかすかに緩んだ。 (あ。ちょっと笑った)  そう思ったのもつかの間、一弥はすぐに表情を引き締める。相変わらずまっすぐな瞳で渚を見つめると、「さっきの話の続きを聞かせてくれないか」と言った。 「さっきの話?」 「イルカのハルトの話だ。そのあとどうなったのか、聞かせろ」 「え……」 (ちゃんと、聞いていてくれたんだ……)  意外な思いだった。誰もまともに聞いていないだろうと思っていたのに、一弥は渚の話に真面目に耳を傾けてくれていたらしい。嬉しくなって、渚は勢いのまま口を開いた。 「イルカたちの気分転換のために、たまにプールにビーチボールを入れることがあるんですけど、その日はボールを与えた瞬間からもうずっとハルトっていうオスのイルカがボールを一人占めしてて。それをグレイっていう別のオスが一生懸命奪おうとしてたんです。しばらく二人で取り合いして、ようやくグレイがボールをゲットしたんですけど、どうするのかなって思って見てたら、グレイがそのボールをスモモっていうメスのイルカにあげちゃって」 「スモモにプレゼントしたということか」 「はい。グレイはスモモが好きで、いつもあの手この手でスモモの気を引こうとしてて。でも悲しいのがスモモの方はハルトが好きで、せっかくもらったボールをハルトに渡しちゃったんですよ」
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