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3 Stormy monday-2
「おい、どうした?! 」
Jの呼び掛けに青年は小さく呻くだけだ。 額に手を当てると、熱い。
ーーしょうがねぇなぁーー
Jは小さく舌打ちして、とりあえず青年の濡れた上着を脱がせ、ソファの上に横たえた。激しい雨に打たれて全身がびしょ濡れだ。
ーーやれやれ……ーー
小さく舌打ちして、青年のシャツのボタンを外していくと真っ白な雪のような肌が目に飛び込んできた。
自分とは似ても似つかない傷のひとつもない滑らかな皮膚にJは思わず視線を逸した。
ほとんど手探りで青年の着衣を脱がせ、本当に狭い形ばかりのシャワールームからタオルを引っ張り出し、青年の身体を包む。
薄いドアで仕切られた寝室のベッドに横たえてブランケットを掛け、ヒーターをオンにしてデスクに戻ろうとしたJの足がふと止まった。
青年の指がしっかりとJのシャツの裾を摑んでいたのだ。
微かに開かれた瞼の中から、潤んだ瞳がJの目を見つめていた。
「寒い……」
「ヒーターを付けた。直に暖まる」
Jの素っ気無い返答に、ますます青年が指に力を入れた。
「傍にいて……」
掠れて、今にも途絶えそうな声で縋る青年にJは、深く溜め息をついた。
「あのなぁ……」
「お願い」
熱に浮かされているのか、息が苦しげなのは確かだ。シャツ越しに伝わる青年の指はひどく冷たい。
ーーこのままじゃヤバいなーー
それは素人のJにもわかる。
ーーけどなぁ……ーー
着衣は全て脱がせているから、丸腰なのは確かだ。粗くだが、髪も拭いてやったから、武器も隠してはいない。Jを締め殺せるような腕っぷしも無い。けれど……
「俺は、バイなんだ。知らねぇぞ」
Jは、ガシガシと頭を掻き、衣服を脱ぎ捨てて、青年の隣に潜り込んだ。皮膚に触れる青年の肢体はまるで氷のようだ。が、半ば朦朧とした意識で縋ってくる青年の頭を軽く撫でて、その身体を腕の中に抱き込んだ。少しだけ息が穏やかになって、表情も和らいだ。
微かに震える伏せた睫毛にJ《ジェイ》は唐突にミシェルの顔を思い出した。
彼の姫君と過ごした束の間のあの夏はひどく眩しかった。少年時代の淡い記憶のなかで、彼は一生で一番笑っていた自分とミシェルの天使のような笑みを思い、ズキリと胸が痛んだ。
ーー元気でいりゃあいいんだが……ーー
別れも言えずに遠く離れた。母親の顔も忘れたというのに、その面影だけが今だに消えなかった。
今一度、大きく息をつき、窓の外に視線を移した。
相変わらず雨粒は汚れたガラスに激しく叩きつけている。その音に混じって、消し忘れたラジオからブルーノートがかすかに流れ続けていた。
Jはそっと目を閉じて、懐かしいメロディに身を委ねた。
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