3 Stormy monday-3

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3 Stormy monday-3

 夜が完全に深まった頃、青年は目を覚ました。  彼がシーツに残る温もりを指でなぞり、そっと頬を寄せていた時、ドアの隙間からふいに声が聞こえた。 「目が覚めたか?」 「あ、あぁ……」  彼は小さく答え、身を起こした。くらり、と眼の前の景色が歪む。が、肩でドアを押し開いて、不器用そうに湯気の立つ皿を片手にのっそりと姿を現した長身の男、J(ジェイ)が目に入ると、小さく微笑んだ。 「オートミールだ。食いな」 「ありがとう」  乱暴にサイドテーブルに置かれた皿を受け取り、ミルクの甘い匂いにほうっと息をつき、一口、口に運んだ。予想外に優しい味が口の中に広がった。彼は、ふとスプーンを止め、傍らの傾いだスツールに脚を持て余しながら座っているJ(ジェイ)を見た。 「着替えさせてくれたんだ……下着まで、済まない」 「仕方ねぇだろ。……俺のモンしか無かったんだ。臭えとか言うなよ」  青年は唇の端を小さく歪め、何故か嬉しげに微笑した。 「とんでもない。……少し大きいけど、温かいよ」 「そうか」  何気なく顔を背けて頭を掻くJ(ジェイ)の耳が心なし赤く染まっていた。  激しかった雨はいつしか小降りになり、外にはけばけばしいネオンが灯っている。 「で、どういう用件なんだ、こんな場末に。D.C.(ワシントン)の秘書官どの」  J(ジェイ)の言葉に青年の顔が一瞬歪んだ。が、それはすぐに柔らかな微笑みに消えた。 「用件はふたつ。人を探している。それと私を守ってほしい」  青年の二つの眼がじっとJ(ジェイ)を見つめた。 「報酬は言い値でいい。……依頼を受けてくれるか?」  J(ジェイ)は小さく頭を振り、溜め息を漏らした。 「D.C.(ワシントン)になら、もっと有能な探偵が山ほどいるだろう。ボディガードもプロ中のプロが幾らでも……」 「駄目なんだ」  言い掛けたJ(ジェイ)の言葉を想定外の強い語気で青年が制した。 「あなたじゃなきゃダメなんだ。あなたにしか私の『騎士(ナイト)は探せない。……敏腕探偵のミスターJ(ジェイ)。あなたにしか頼めないんだ」 「あんた……」  J(ジェイ)の頬がピクリと動いた。   探偵事務所の看板も身分証明書(グリーンカード)も、オヤジから貰った名前で記されている。彼が、J(ジェイ)であることを知っているのは、「仕事」の仲介人とサポートの仲間だけだ。彼らは総じて口が固い……はずだ。それと……。 「大丈夫だよ。他言はしない。心配なら、ずっと私を見張っていればいい。そうだろう?」 「あんたなぁ……」  青年の内気そうな、温厚そうな瞳に、瞬間、鋭い光が走った。それは鋭利なジャックナイフそのものの光だった。 「オプションも付けるし……さ。受けて、ミスターJ(ジェイ)」 「オプション?」  訝るJ(ジェイ)の頬に、しなやかな指がスルリと触れ、頭をぐいと引き寄せた。カサついたJ(ジェイ)の唇に柔らかな温かいものが触れた。 「バイ……なんでしょ?私を好きにしていいから……。だから、依頼を受けてくれないか」  睫毛が触れるほどの距離でじっと見つめられて、J(ジェイ)は大きく息をついた。 「訳ありなのは、わかった。返事は明日の朝だ。そこの薬を飲んで、サッサと寝ろ」  J(ジェイ)は動悸を覚られないよう、青年を引き剥がし、シーツの中に押し込めた。 「泊めてくれるの?」 「病人を狼の巣に放り出すほど薄情じゃない」  J(ジェイ)は、くるりと背を向け、ドアに手を掛け、ふと足を止めた。 「あぁ、それとコンタクトは外しておいたほうがいいぞ。乾くと目に良くない」  青年は、一瞬ギョっと目を見開いた。が枕元の水の入ったコップに視線を走らせ、クスッと笑った。 「おやすみ、J(ジェイ)」 「ああ、おやすみ。サイモン」      
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