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そして私たちは、
「あんた、ほんと何も見てねえんだな」
出会ってしばらくして、私は彼の残業を手伝うことになった。
彼は頭はいいのだけれど、後遺症で熱が出たり手元が上手く動かなかったりして、ちょっとした作業に凄く時間がかかるときがある。
「俺の仕事だから俺がやる」
一人で残っていた背中に私は声をかけたのだった。
そんなときにまた、見えてないと言われた。
また何か迷惑をかけたのかもしれない。
私は顔が熱くなった。
「ごめんなさい。よく言われるんです。ボーッとしてるって。不快だったらごめんなさい」
「別に。残業手伝ってくれてるのに不快なんかあるかよ」
あなたは初めて、この時笑顔を見せてくれた。
私はいつしか人におこられることが減った。
彼はどんどん回復し、怖い顔と声であっという間に営業所になくてはならない人になった。
「お前はほんと、見えてねえよな」
それでも彼は私を見下ろし、義眼の目を細めて笑う。
「お前は目ん玉二つついてるくせに、何もみてねえんだな」
「いいの。あなたが代わりに見てくれるから」
「それ、俺に言うのか?」
視野が狭いとよく言われる。詰られる。
お前はわかってない。理解していない。
だから俺がずっとそばで、お前がバカやらないように見張っててやる。
手続きのことは、私はよくわからない。
けれど彼に連れられて、お役所に行って、わたしたちは書類の上でも対になった。
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