ぼーっとした私と、怖い顔をして怒るあなた

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ぼーっとした私と、怖い顔をして怒るあなた

「馬鹿野郎、もっと前見て歩け!」  歩道でふらふらと電信柱にぶつかろうとした私を、彼は声を荒げて注意した。私の左肩が触れる彼の右側、見上げる彼の顔は事故でぼろぼろになっている。嵌め込まれた義眼だけがつるつるとした質感で、空の青を映している。  すっきり切った短髪で、ふん、と背筋を伸ばして歩く姿は、すごくすごく、格好いいと思う。 「ッ……! だから! いいからお前は前を見ろ!」  また、左腕を引かれる。寸のところで私は犬のウンコを踏まずにすんだ。  彼からはよく怒られる。  お前はボーっとしていると。  税金もきちんと払え。若いうちに保険に入ってろ。国民年金払ってない!?いつからだ。  下着にスカートを挟むから短いスカートは履くな。一人歩きするときはスタスタ歩け。  絶対もう電車賃をせびられても出すんじゃねえ。  彼以外の人にも、私はよく怒られる。  書類のミスが多い。ちょっと考えればわかるのに、気遣いがなってない。  よくこける。素面なのになんで、階段から転がり落ちるの。  そんな風に私が怒られたと知ると、彼はもっともっと怖い顔になる。  ごめんなさい。私が、周りをよく見ていないから。あなたを怒らせてしまう。
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