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「倒れるほどの何かが、アルベルト様の心を苛んだのですか? 一体何が……」
「誰もが恐れる炎の戦鬼も、やはり生身の人間だということです」
「え?」
「強くあらねばならないのは国のため。大事なものを守るためです。国を導き、先陣に立って指揮を執る彼だからこそ、弱音を吐くことは許されない」
時に畏怖すら感じるアルベルトの強烈な炎は、戦場において騎士たちの強い心の拠り所になるだろう。決して消えることのない彼の炎は騎士たちを鼓舞し、士気を上げる。戦に疎いセシルでも、その様子はありありと想像が出来た。セシル自身も、彼の炎に憧れた瞬間があるのだから。
強く気高く燃えさかる炎。その美しさに、あるいはその恐ろしさに、炎へと手を伸ばす者はいない。炎の中にいるアルベルトは、いつでもひとりきりではないか。
はっと顔を上げると、少し寂しげな微笑を浮かべるフォルカーと目が合った。
「セシル殿。あなたには、アルベルト様が羽を休める場所になって頂きたいのです」
「……私で、お役に立つのでしょうか」
「あなたでなければならないと、私はそう思いますよ」
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