8・無防備な素顔

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 窓の外から見える空は、随分と日が翳ってきていた。青と薄桃色に染まった空に、夕闇がゆっくりと手を伸ばしはじめている。薄暗さを増す室内に明かりを灯すにはまだ早く、けれど本の文字を追うには難しい。読んでいた本から顔を上げ、セシルは未だ目を覚まさないアルベルトの顔を窺い見た。  顔色は随分と良くなっていた。医者が言うように、眠ることによって体を蝕んでいた疲労が緩和されたのだろう。繰り返す呼吸も規則正しい音でセシルの耳に届いていた。  夕暮れに沈む室内。ベッドの白いシーツに零れるアルベルトの赤髪は、闇を吸い取っていつもより黒く見える。血色が戻ったとは言え頬はまだ白く、固く閉じられた瞼を縁取る睫毛が、寝顔に薄い影を落としていた。  昏々と眠るアルベルトの寝顔が少しだけ幼く見えて、セシルの胸が不意に甘やかな鼓動を鳴らしてしまう。肌を重ねた夜は幾度とあれど、こんな風に無防備な姿を晒して眠るアルベルトをセシルは見たことがない。  はじめて目にするアルベルトの姿に、何だか見てはいけないものを見たような気がして、セシルは慌ててベッド脇の椅子から腰を上げた。
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