同級生

3/3
前へ
/3ページ
次へ
 俺たちは家が近所だから、最寄り駅は同じだ。同じ駅で二人で降りた。小さい駅だから、降りたのは俺たちだけだった。 「ねえ、覚えてる?」  改札を抜けたところで、彼女が突然聞いた。 「え?」 「私の名前」 「さっきから私の名前呼んでないよね? もしかして忘れちゃった?」  あまりにも悪戯っぽく言うので、俺は思わず叫んだ。 「いやいや、覚えてるよ! (あきら)だろ!」 「ごめんごめん、わかってるよ。気つかってくれたんでしょ?」  そうだよ。小中学校の同級生だった彰。小中学校では男子だったけど、私服の高校に行って今は女子になってるって、母さんから聞いてた。話に聞いてたとはいえ、いざ見かけたら話しかけていいか迷った。男の時の名前をそのまま呼んでいいものかわからなかった。 「大丈夫だよ。名前は変えてないから。今も彰のままだよ。そもそも格好だけで、一応男子生徒だし」 「そうなんだ」 「(あきら)は、女の子でもいる名前だしね。今度会ったときは、普通に名前呼んでくれていいからね」 「わかったよ。またな。彰」 「うん」  駅を出ると、彰は俺と反対の方向に歩き出した。家が反対方向だからだ。 「気をつけろよ」 「へ?」 「ほら、夜道だし」 「大丈夫大丈夫。私、まだ男だから」 「そういう問題じゃないだろ」 「悠一くんって優しいよね。私、今日ここで話したこと、忘れないよ」  彰はそう言って、綺麗な顔で笑ったあと、夜の道に消えて行った。  おわり
/3ページ

最初のコメントを投稿しよう!

6人が本棚に入れています
本棚に追加