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俺たちは家が近所だから、最寄り駅は同じだ。同じ駅で二人で降りた。小さい駅だから、降りたのは俺たちだけだった。
「ねえ、覚えてる?」
改札を抜けたところで、彼女が突然聞いた。
「え?」
「私の名前」
「さっきから私の名前呼んでないよね? もしかして忘れちゃった?」
あまりにも悪戯っぽく言うので、俺は思わず叫んだ。
「いやいや、覚えてるよ! 彰だろ!」
「ごめんごめん、わかってるよ。気つかってくれたんでしょ?」
そうだよ。小中学校の同級生だった彰。小中学校では男子だったけど、私服の高校に行って今は女子になってるって、母さんから聞いてた。話に聞いてたとはいえ、いざ見かけたら話しかけていいか迷った。男の時の名前をそのまま呼んでいいものかわからなかった。
「大丈夫だよ。名前は変えてないから。今も彰のままだよ。そもそも格好だけで、一応男子生徒だし」
「そうなんだ」
「彰は、女の子でもいる名前だしね。今度会ったときは、普通に名前呼んでくれていいからね」
「わかったよ。またな。彰」
「うん」
駅を出ると、彰は俺と反対の方向に歩き出した。家が反対方向だからだ。
「気をつけろよ」
「へ?」
「ほら、夜道だし」
「大丈夫大丈夫。私、まだ男だから」
「そういう問題じゃないだろ」
「悠一くんって優しいよね。私、今日ここで話したこと、忘れないよ」
彰はそう言って、綺麗な顔で笑ったあと、夜の道に消えて行った。
おわり
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