38人が本棚に入れています
本棚に追加
またホイッスルが鳴った。それまであちこち動き回っていた子たちが一斉に「疲れました」と言わんばかりの足取りや仕草でコートの外に出ていく。
私は「退屈だなぁ」となんとなく思った。これ以上運動して筋肉痛を助長させる心配がなくなったのは嬉しいけれど、いざ何もすることがなくなるとそれはそれで退屈だ。
特に理由もなく天井を仰いでみると、屋根の柱にバレーボールが引っかかっているのを見つけた。きっと部活中に高く上がり過ぎて引っかかったんだろうとは思うけれど、よくよく考えてみるとなんとも不思議な話だ。体育館の天井はかなり高いのに、その柱にボールが引っかかる。いったいどれだけ勢いよくトス(ひょっとしたらレシーブかもしれないけど)したらあんなところまで飛んでいくんだろう。
しばらく天井を見上げ続けて、だんだん私の頭が後ろの方に傾いていく。ある一点まで来たところでふらっとバランスが崩れた。おっとっと。
とっさに手を付いて事なきを得た。危ない危ない。ほっと胸を撫で下ろして、どうやら準決勝らしい試合を何の気もなく見ていた。
本当に何の気もなかった。だから、ふと目尻に映ったそれが気になった。
……?
バスケットコートの外。私や他の子たちと同じように、床に座り込んでいる女の子の背中があった。ずっと俯いている。どうしたんだろう、具合悪いのかな。遠目から見てもそんな風には到底思えないその子が、やたらと自分の足を気にしていることに気づいたのはそれからすぐだった。
きっといつもの私なら、――ちょっと薄情かもしれないけれど――「大丈夫かな」なんて思いはするけどそれっきり気に留めることはない、なんて風にしていただろう。だけど、この時だけは違った。まるでそうすることが、太陽と月が変わりばんこに出てくるのと同じくらい当たり前のことのように感じた。
自然とその子に近づいていた。どんな風に声を掛けたら、とか、どう思われるだろう、とか、そんなにっちもさっちもいかないことなんて考えなかった。
「ねぇ」
しゃがみ込んでそう声を掛けた。それまで私には背中しか見えていなかったその子が、「私かな?」というような感じで振り向いてくる。そうして初めて見たその顔に、同じ女の子でありながらドキッとしてしまった。
最初のコメントを投稿しよう!