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同じ中学生とは思えないほどきれいだった。流れるような睫毛と二重瞼、琥珀色に澄んだ瞳。体育館の照明や外を明るく照らす太陽の光を浴びた黒髪は鎖骨の辺りまで伸びていて、直接触れなくてもサラサラしているのが分かるくらいだ。二の腕くらいまでジャージの袖をたくし上げて、そこから見える健康的な白い肌も、細く伸びた華奢な四肢も、全部が全部この子のためだけに剪定されたように思うほどだった。
あまりにきれいで可愛らしかったから、私はその場でしばらく固まってしまう。けれどその直後、ふと目に彼女の足元が見えて事なきを得る。
「足、大丈夫? さっきから、すごい気にしてるみたいだけど……」
彼女はただかぶりを振った。
「ううん、大丈夫じゃない」
「捻ったの?」
「そうみたい。いてて……」
眉をひそめる彼女の表情は本当に痛そうだった。と、ちょうどそこに応急手当要因で駆り出されていた保健室の先生が来てくれた。
「どうしたの?」
「あ、先生。この子、足捻っちゃったみたいで」
「あらそう、立てる?」
「はい、なんとか……」
そう言って彼女は私の手を支えにして立ち上がろうとした。けれどよっぽど足が痛むのか、バランスを崩してしまう。ほぼ同時に立ち上がった私の方に倒れ掛かってきた。ふわっと花の匂いがする。
「あら、結構ひどいみたいね」
保健室の先生は顔色を変えてすぐに保健室へ連れて行ってくれた。念のため私も支え役と付き添いの二役でついていく。
保健室に入ってすぐ、氷の入った袋で彼女の足を冷やした。先生は何か用があるのか直に「ちょっと待ってて」と保健室を出ていき、私と彼女の二人だけがその場に残る。
「大丈夫?」
「うん、気持ちいい」
「そっか。なら良かった」
彼女の体中から余計な力が抜けたような声色を聞いて、私もホッと一安心できた。
「ありがとう」
唐突にそんなことを言われた。
「へ?」
目が点になる、とまではいかないものの、どこか間の抜けた声が出てしまう。それを彼女はクスっとすら笑うことなく言葉を続けた。
「私、昔から何かとやせ我慢しちゃうタイプでさ、深瀬さんに声かけられてなかったら、きっと今もずっと我慢してたと思うから」
感謝され慣れていないせいで嬉しさよりも気恥ずかしさの方が勝ってしまう。「いや、別にそんなのたいしたことじゃないし……」と謙遜でも何でもないことを言う傍ら、顔がちょっと熱くなる。……って、ん?
何か違和感みたいなものを覚えた。あれ、あれれ?
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