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高校生編 第3話
1
四月六日の夜。明日には高校の入学式が控えている日。私が明日の準備を整えたとほとんど同時に雪ちゃんから電話がかかってきた。
『明日から高校生って、なんかまだ実感ないなぁ』
「そうだよね。私もまだちっともそんな気じゃないもん」
『入学式明日だっけ?』
「うん。雪ちゃんとこは?」
『明後日。あぁーあ、私も咲良と同じ高校通いたかったなぁ』
電話の向こうで雪ちゃんが憮然とした感じでぼやく。私は苦笑という一番無難な反応をするしかない。
私はもともと志望していた県立高校に合格したけれど、雪ちゃんはあと一歩届かなくて不合格になってしまった。補欠合格も願ったけれど、残念ながら私たちは別々の高校に通うことになってしまった。
不幸中の幸いは、私と雪ちゃんが通う高校がそれほど離れてないこと。だから放課後の時間が合えばどこかで待ち合わせをして放課後デートなんてこともできる。でもやっぱり一緒の高校に通いたかったなぁ。なるようにしかならないのが現実だから仕方ないんだけど。
『そういえばさ』
「うん?」
『咲良、バイトとかする予定あるの?』
「あぁ~うん。今のところはどこかでしよっかなって」
『そっかぁ。余計に会う機会減っちゃうね』
雪ちゃんの声が分かりやすく暗くなる。
「そうだね。でもさ、その分空いてる時にいっぱいデートしよ」
『うん』
ちょっとだけ雪ちゃんの声が明るくなった。その後またしばらく何でもないことを話して寝ることにした。明日から始まる高校生としての生活が楽しみ過ぎて眠れないなんてことは無く、いつも通りの時間にアラームが鳴るまでぐっすり寝ることができた。
今まで通りの身支度を済ませてから、今日から袖を通し続けることになる高校の制服に着替える。
白いブラウスに青いギンガムチェックのスカートを履く。蝶ネクタイみたいな形をしたリボンを付けて、その上にベージュのブレザーを着れば、いともたやすく私は「高校生としての深瀬咲良」になる。
家を出る前にもう一回鞄の中を確認して、財布のカードポケットに入れていた通学定期券をスマホケースのカードポケットに移し替えてから玄関へ。ちょうどお父さんがスーツに着替えて出てきたところだった。
「お父さんも今出るの?」
「あぁ。気を付けて行って来いよ」
「はぁーい」
ローファーを履いて「行ってきまーす」と外に出た。空気はまだ少し冷たいけれど、真冬ほどじゃない。
ほとんど初めての道を歩いていると、なんだか今までにない高揚感みたいなものが胸のあたりで燻った。
駅の改札で定期券を通してホームに出ると、ちょうどベンチに座って電車を待っている横顔を見つけて驚いた。
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