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退屈だった。暇つぶしの散歩がてらどこかに行っても良かったけど、初めてまともに着た高校の制服と初めて触れた新しい環境の空気に体がやられてしまったのかそんな気すら起きなかった。
退屈だった。アプリゲームのステージ攻略も今のところ全部終わっている。やることがなくて本当に暇だった。
耳元でけたたましく鳴る電話の着信音で目が覚めた。どうやらあのまま寝落ちしてしまっていたらしい。寝ぼけ眼で視界がはっきりしないままスマホを手に取り、青い方をタップする。
「もしもーし?」
『あ、咲良?』
頭はまだぼんやりしていたけれど、何度も聞き慣れた声のおかげでちゃんとその相手が誰かを体は分かってくれたらしい。
「どーしたのおとーさぁん?」
『なんかお前、すごい喋り方してるな。もしかして寝てた?』
「んーそうかもぉ……」
電話の向こうでお父さんは「はははっ」と笑う。対して私はふあぁ~っと今までした中で一番大きいんじゃないかってくらいの大きいあくびをした。そのおかげでポーっとしていた頭がはっきりしてくれた。
「んで? お父さんはどうしたの?」
『あぁ、そうだった』
お父さんの電話の理由は、なんてことはなくただ今日の晩ご飯をどうするかだった。電話自体は別に良いとして、気になったのは……。
「なんか珍しくない?」
『え、なにが?』
「お父さんがそんなこと聞いてくるなんてさ、今まであったっけ?」
少なくとも私が覚えている限りでは、そんなことは無かったと思う。いつもお父さんが独断で買ってきたもので料理して食べていたし、こんなことなんて前に一回でもあれば覚えてるはずだ。
『あぁ~そういや無かったかも』
「でしょ? だから急にどうしたのかなぁって思って」
『何もないよ。咲良の好きなもの作ってやりたいだけ』
「別に良いのに」
『子供が親にわがままの一つや二つくらい言わないでどうするんだよ』
「でも……」
私が渋っていると、お父さんが優しく諭すように「なぁ咲良?」と話し出した。
『お前がそういう風に遠慮するのも分かるよ。でもさ、せっかく高校生になった日なんだし、そういう日くらい、ちょっと贅沢しても良くないか? こんな生活でいろいろ我慢させてる分、こういうのでするくらいなら、俺は別に何とも思わないぞ?』
そんな風に言われたら、これ以上渋ろうとは思わなかった。
「……うん、分かった」
『そうか。それで、何食べたい?』
何が良いだろう。正直なことを言うと、私はお父さんが作ったものなら何でも良い。だけどそれはそれでまたお父さんを困らせてしまうから、「ん~そうだなぁ」と考えてみる。すると、案外すぐに出てきた。
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