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「いい加減諦めなよ。ここにあんたの味方なんて一人もいないんだよ」
「そんな……」
どうして自分が被害者みたいな顔ができるんだろう。そうしたいのはむしろこっちだ。私がどれだけ怖かったかも知らないくせに、自分のことしか眼中にないくせに。
「出てってよ。あんたなんか大っ嫌い」
私から言いたいことはそれだけだった。後はお父さんが全部言ってくれると思ったから。
案の定、お父さんは吐き捨てるように告げる。
「咲良は誰にでも当たり前のように優しくできる子に育った。その咲良がここまで分かりやすくお前を拒絶したんだ。それだけお前はどうしようもないやつなんだよ」
私はその場に居たくなかったのとちょっと自分を落ち着けたかったのとで、キッチンでコップ一杯の水を飲む。お父さんの言葉だけが聞こえてきた。
「分かったら、これ以上俺らに関わるなよ。まだ俺たちの生活を邪魔するつもりなら、その時は本気で警察沙汰だ。良いな」
しばらく何も物音がしないまま時間が過ぎた。やがて玄関ドアが少しだけ重々しく開いて閉じる音が聞こえて、お父さんが「やれやれ」と頭を掻きながらリビングに入ってきた。
「とんだ災難だったな……」
まったくだ。なんで今日に限ってこんなことになるんだろう。せっかく雪ちゃんと楽しく過ごそうと思っていたのに、それも土石流に押しやられるように流れてしまった。
あの人を許すつもりはこれっぽっちも無い。むしろ今まで散々好き勝手にしてきたんだから、その分の厳罰はちゃんと受けてほしいというのが本音。
それとは別に、私は純粋に気になったことがあってお父さんに聞いた。
「本当に私たちのお金目当てだったのかな?」
「そうだったんじゃないか? 付き合ってた時も、何かにつけて金貸してくれって迫られたし。一応何に使うのか聞いたけど、『そんなの後回し』とか『何に使おうが自由』とかの一点張りだったっけ。今思えば、めちゃくちゃめんどくさいやつだったな……別れて正解だった」
「だったら付き合ってる時から別れてれば良かったのに」
「確かにな。でも、あいつと結婚したから咲良が産まれてくれたってのもあるし、一概に悪いとは言えないんだけど……でもやっぱりあいつと付き合ったのは間違いだったな」
お父さんは苦笑する。私はなんとなくもう一杯水を飲む。
「前から思ってたけどさ、お父さんって私のこと大好きだよね」
「そりゃそうだろ、一人しかいない大切な家族なんだから。そいつのことくらい真っ当に愛してやらないと、親の面目なんて立たねえよ」
「ふぅん、そうなんだ」
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