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晩ご飯の後、お風呂に入った私は、ドライヤーで髪を乾かしている途中にふとあることが気になった。今気にしたところで何の意味があるのかなんてよく分からないけれど、でもせっかくだからお父さんに聞いてみることにした。
乾いた髪をクシで整えた後、お父さんの仕部屋のドアをノックする。すぐに中からお父さんが出てきた。
「どうした咲良?」
「たいしたことじゃないんだけど、ちょっとだけ時間いい?」
「あぁ良いよ、入りな」
お父さんに促されるまま部屋に入る。そういえば、お父さんの仕事部屋にはいるのはこれが初めてだ。デスク周りはパソコンだとか仕事で使うだろう資料だとかで散らかっているけれど、それ以外はきれいに整頓してある。
お父さんとは向かい合わせに座った。
「それで、どうした?」
「今さら掘り返すのも変なんだけどさ」と前置きをして、私は聞いた。
「お父さんは、本当にお母さんのことが好きだったの?」
初めて自分の口から出した「お母さん」という響きは、砂を噛んだように不味かった。
「うん、好きだった」
「だったらさ、離婚届だけ置いて出ていかれた時に、電話でも何でもしてもっとちゃんと話し合った方が良かったんじゃないのかなって。その時のこと何にも知らない私が言うのも変なんだけど」
「……そうか、そうだな。あの時は俺も『そっちがその気なら』って感じで半分くらいやっつけだったけど、確かにもっとちゃんとお互いの意見とか主張とか、納得のいくまで話し合えばちょっとは違ってたのかもな」
お父さんは椅子の背もたれに体を預けて「そうだなぁ」と感嘆するような声を漏らす。
「咲良、お前本当に優しい子だな」
柔和に笑った。私も嬉しくて笑う。
「じ、じゃあ私もう寝るね。おやすみ」
どこか照れくさくてやや早口になりながらお父さんの部屋を後にした。
部屋に戻ってすぐ寝ようと思ったけれど、なんとなく雪ちゃんに電話を掛けていた。今の時間ならまだ起きているはずだ。
数回のコール音の後、「もしもし?」と雪ちゃんの声がする。
「雪ちゃん? まだ起きてる?」
『うん。そろそろ寝ようと思ってたんだけど、どうしたの?』
「なんとなく電話してみただけ」
『なにそれ』
電話の向こうで雪ちゃんは笑う。
「雪ちゃんはさ、夏休みの予定何か決まった?」
『ん~今はまだ何も決まってないなぁ』
「そっかぁ。今年も夏祭り行けると良いね」
『そうだね。咲良の浴衣姿見てみたいなぁ』
「雪ちゃんの浴衣姿とか絶対似合うでしょ」
『え、そうかな? ってか、こんな話前にも一回しなかった?』
「そういえばそうだった。一回してたね」
『やっぱり』
二人で笑う。その後私の方が大きなあくびが出てしまったので、「おやすみ」と電話を切って眠った。
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