高校生編 第3話

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「そういえばさ、何か無いの?」 「え? 何かって、何?」 「いやほら、浴衣着てるんだし」  一瞬何のことか本当に分からなかったけれど、「なんだ褒めてほしいだけか」と気づく。それなら「浴衣どう?」って感じで訊いて来れば良いのに……雪ちゃんも案外自信無いのかな。 「うん、似合ってるよ。可愛い」 「えへ、咲良も似合ってて可愛いよ」  二人で照れ合いながら道を歩く。祭りの中心部の神社へ近づくにつれて人の数も多くなってきた。私たちは人通りの多さに巻き込まれてはぐれないように手を繋いで神社の鳥居を端を歩いてくぐった。  並んでいる屋台は三年前に来た時とほとんど変わらなくて、そこに最近のトレンドアイテムが追加されたような感じだった。  ひとまず適当に目に付いた屋台で買ったものでお腹を満たしてから、特に何か娯楽的なものをするわけでもなくひたすら屋台の群れを見て回った。そうしているだけでもあっという間に時間が過ぎていくもので、気が付いた時には提灯の仄かな灯りが目立つくらいまで夜の帳が下りていた。  夏祭りの最後を締めくくる花火が打ち上がるまでまだ少し時間があって、そのうちに私たちは河川敷に沿って並ぶ屋台で買ったりんご飴をゆっくり味わっていた。 「あぁ~楽しかった!」  隣でりんご飴片手に伸びる雪ちゃん。 「まだ花火始まってないよ?」 「そうなんだけどさぁ、なんかもう充分満足しちゃってる」  それもそうだ、屋台を見て回っている時だって終始笑いっぱなしだったんだから。よっぽど楽しかったんだろう。  私だってそうだ。めちゃくちゃ楽しい。三年前の比にならないくらい楽し過ぎる。前に一回見たことも感じたこともあることのはずなのに、目に映る景色も、耳に入ってくる音も、鼻腔(びこう)を滑る匂いも、肌や五感を通して伝ってくる全部が初めて見るものみたいに煌めいている。こんなこと初めてだ。  りんご飴をゆっくり咀嚼しながら雪ちゃんと談笑していると、不意に雪ちゃんが感慨深げに言った。 「なんか私たちさ、前に来た時とだいぶ変わったよね」 「うん、いろいろ変わったね」  環境も、考え方も、思いも、時間が経てばいろんなことがだんだん変わっていく。それ自体は何も珍しくなくて、むしろ当たり前にもほどがあるくらいのことだ。でも……一個だけ、今もこれからも絶対変わらないと胸を張って言えるものだけは、ずっと胸の中にある。  だけどいざ言葉にしようとするとなかなか踏み出せなくて、溜飲(りゅういん)みたいなじれったさをりんご飴で胃袋の中に流し込む。……と、そこで。 「あ、花火上がった!」
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