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雪ちゃんの声が上擦ったように高くなる。私は残り僅かだったりんご飴を急いで口に放り込んで空を見上げる。星も月も出ていない真っ暗な空に、大きな花火がパッと光って咲いて、儚く散った。名残惜しさをかき消すように次々と花火が打ち上がっていく。私はその様子をただ黙って見上げていた。
何も言葉なんていらないくらい感動していたから。何度も何度も打ち上がっては消えて、その度に雪ちゃんは子供みたいに無邪気な声をあげる。花火と雪ちゃんが、私の心を延々と揺蕩わせていく。
これじゃあ、あの時とまるっきり正反対だよ……。
無意識のうちに雪ちゃんの手を探して、離すまいとするように指同士を絡ませて繋いでいた。初めての、恋人つなぎ。恥ずかしさなんて二の次だった。
ふと雪ちゃんの方を見てみると、それこそ幼気な子供みたいなあどけない表情のまま夜空を見続けていた。ただそれだけだ、たったそれだけなのに、その姿はけんもほろろになるくらい嫋やかで、それでいて年相応で……。
どこにだっている普通の女の子のはずなのに、私には全く違って見える。
好きな人だから? ううん、違う。
恋人だから? ううん、それも違う。
じゃあ、一体全体何なんだろうって、考えるより先に答えが出た。
一際大きな花火が空に打ち上がる。雪ちゃんが歓声を上げる。
「うわあ~! 咲良、今の見た? すっごい大きかったよ!」
あぁそうか、そういうことか。
気づいてしまったら、その後は簡単に体が動いてくれた。光の速さくらいにあっという間だった。
「え、さく――」
雪ちゃんの声を途中で遮る。唇が重なり合う瞬間、花火が打ち上がる。
唇が離れて雪ちゃんの顔が目に映る。花火しかまともな灯りが無い暗闇でもはっきり分かるくらい、雪ちゃんは顔を赤くして固まっていた。
「もう……まだ花火、途中なのに……他にも、人、いるのに……」
ようやくそれだけ言った雪ちゃん。
「うん、分かってるよ。でも、もういいや」
「へ――?」
本当に、もういいや、だ。
左手で雪ちゃんの肩を掴んで、雑草しか生えていない地面に優しく押し倒す。挟み撃ちにするようにまたキスをする。唇を離して、すぐそこにある雪ちゃんの戸惑ったような潤む瞳を真っ直ぐに見つめた。初めて出会った時と少しも変わっていない、琥珀色の瞳。
「雪ちゃん、愛してる」
もはや好きとか大好きとか、そういう次元じゃなくなっている。無邪気な表情もはしゃぐ声も、繋いだ指から伝わってくる温もりも規則正しい呼吸も、雪ちゃんの全部を私は愛している。
雪ちゃんはしばらく目を泳がせて、それから俯き加減に小さく言った。
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