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最後の花火が打ち上がった後、私たちは足早に河川敷を後にした。いつまでも居座っていたらきっと帰りたくないと思ってしまうから。
帰り道を歩いている途中、雪ちゃんが私の肩に自分の体を預けてきた。
「どうしたの?」
「ううん、来年もこうやって一緒に来れたら良いなって思っただけだよ」
「……嫌だな、そんなの」
「え?」
「来年だけじゃ嫌。もっとずっと、雪ちゃんと一緒にこうやって夏祭りに来て、一緒に花火見たいもん」
「咲良……うん、そうだね。来年だけじゃなくて、その先もずっと一緒に来ようね」
雪ちゃんが私の髪を梳くように撫でた。その後はお互い何もしゃべらないままゆっくり家路を歩いた。言葉なんて交わさなくても、指切りげんまんみたいに小指だけを繋いでいるだけで充分だった。
雪ちゃんの家の前で別れる時、少なからず寂しさを感じた。家の中に入っていく雪ちゃんの背中を駆けだして抱きしめそうになるのを必死に抑えて私も家に帰った。
だからだろう、その日は雪ちゃんと二人きりでいる夢を見た。
空も地面も地平線の彼方まで真っ白で、そのド真ん中に私と雪ちゃんが二人きりで寄り添っている夢。私が雪ちゃんの膝の上に横になっていると、雪ちゃんは私の顔を隠していた髪を私の耳にかけてどける。その指触りがくすぐったくて私が雪ちゃんから体ごと目を逸らすと、雪ちゃんは半ば強引なくらいに私の顔だけを自分の方に向けて、私の目を覗き込むように顔を近づけてきて、額どうしをコツンと重ね合わせた。
それから何か言葉を交わした気がするけど、朝になって目が覚めた時には忘れていた。その後も身支度を整えながらどんな夢だったっけ、と思い出そうとはしてみたけれど、朝ご飯を食べ終わった頃にはそんな夢を見ていたことすら忘れていた。
絶賛夏休み中だけど、今日は朝から昼までバイトの日だ。向こうに着いてからの準備を考えると、八時三十分を過ぎた頃には家を出ないと間に合わない。
スニーカーを履いて外に出ると、八月らしい容赦ない日差しが燦々とアスファルトの道路に照り付けていた。エントランスから外に出てちょっと歩くだけで汗が流れ出してくる。一応ウォータープルーフの日焼け止めは塗ってきたけれど、汗の量に耐え切れなくて落ちてしまうかもしれない。
純喫茶に着いて、従業員用の入り口から中に入る。二階の休憩室にノックをしてから入る。既に私の指導係だった竹中さんと、同期でクラスメイトの山内くんが来ていた。
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