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師匠の悪癖
店仕舞いをして掃除をしていると、師匠のアトリエから金属を打つ甲高い音が聞こえてきた。
気になって覗いてみると、二つ結びの珊瑚色の髪が揺れている。
アトリエでは、師匠で店主のアルマルガ・シュルツが一振りの剣を打っていた。
「……珍しいですね。師匠が自ら剣を打つなんて」
恐る恐る声をかける。
師匠の仕事は気まぐれだ。一切仕事をせず、ガラクタを弄ってばかりの時もあれば、いきなり剣を二振り、三振り続けて打ち始める時もある。この前なんか拳銃を作ったかと思えば、アトリエ内でぶっぱなして壁に穴を開けたり……。
とにかく気分屋なのだ。
製作の依頼を受ける、受けないも気分次第……。僕は毎日師匠の気まぐれに振り回されている、と言っても過言ではない。
そんな師匠だけど、剣を自発的に打ち始めることは少なく、ストレス発散や、何かアイデアを思い付いた時に、打ち始めることが多い。今回は依頼を受けたりはしていないはずだし、ストレスを溜めている様子もなかった。なので、何か閃きがあって剣を打ち始めたのかも、と予想した。
「ああ、スヴェン。実はちょっといいことを思い付いてね、今すごくノッてきているんだ!」
カン、カン、カン。と、規則的に甲高い音を響かせ、ハンマーを振り下ろしながら師匠は僕を振り返らずに答えた。
――こうなってしまっては、剣を打ち終わるまで止まらないのが師匠だ。何を言っても無駄だろう……。
「わかりました。後で夕食を持ってきますね」
「ん、ああ。しかし、今は食事をする時間も惜しくてねぇ」
「そんなこと言って、ダメですよ。ちゃんと食べなきゃ」
「とにかく。スヴェンは先に休んでいいよ」
「じゃあ、そうさせてもらいますね。――くれぐれも無理しないで下さいね」
「ああ、わかってるさ。一気呵成にやりきってみせるよ」
本当にわかっているんだか……。
心の中で呟き、僕はアトリエを後にした。
後で簡単に食べられるものを持って来よう。おむすびとかにしようかな……。
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