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奴は迷彩色のバックパックから取り出した飲み物を頭からかけた。髪から足にかけて透明の液体が舞う。
鍛え抜かれた体躯と艶やかな黒髪にかかる光景に恍惚として我を忘れた。その姿は渇いた大地に水が注ぎこまれるような透明感がある美しさだった。だが、奴の視線はこちらを嘲笑していて、余裕綽綽だと感じさせられた。
隙をついて攻撃しようと二人で考えたが、右手のナイフがずっとこちらに向けられたままでなめからに動き、こちらの動きを悟るように、あらゆる攻撃を制御していた。ナイフの重みと鋭さを強く感じた。
「さて、三つ目だ。君達自身のことだ。君達二人は、我が軍によって数ヶ月前に、私とその部下によって、ここから遠く離れた集落で拘束された。その時に、既に私と君達は戦っている。言いたくなくはないが、君達二人が、どれだけ頑張っても、さすがに私は倒せない。自明の理というやつだ」
私は襲いかかろうとしたが、兄がその気配を感じて、地面に押さえつけた。
私は拳で地面に視線で兄に怒りをぶつけた。だけど、押さえつけている兄が、涙を堪えているのがわかった。無力さを体の底から感じた。
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