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『ねぇ、覚えてる?』
ふり返った俺に投げられた切れ長の目が、そう囁いていた。
彼女になにをしたのか……。
どこから連れてきたのか……。
問いの意には、その二つが含み持たれているように思えて―――。
まただ……。
揺れる脳内で無意識のつぶやきが洩れた。
ベッドに横たわる裸体―――。
腹の部分だけがタオルケットで隠されたそれは、完璧といっていい均整を誇示し、レースのカーテン越しから射し込む土曜日の陽射しを受け、艶やかな輝きを放っている。
また、つんとすましているようにも見えながら、未だ誘っている……とも思える小顔も、日本人離れしたセクシーさに満ちていて―――。
好みの女に間違いはない。
……だからといって―――。
引かれた艶やかなルージュの赤から視線を引き剥がすと、俺の両手は自然と二日酔い真っただ中の頭を抱えた。
カーペットに転がる口紅を、落ちた視線が拾う。
先日の勝代との喧嘩が、また、この病気を生んだ……か。
ただ喧嘩といっても、こちらは一方的にまくしたてられる罵詈雑言をひたすら受けるだけ。いつもそう。そして、毎度、原因は彼女の身勝手な理由から。
積み重なるこんな理不尽な仕打ちに耐えてきたのも ―――。
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