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喉の渇きが、だるい身を立ちあがらせた。
トランクス一枚の姿で冷蔵庫を開ける。一本だけ残っていた一リットルペットボトルのミネラルウォーターを、半分ほど一気にあおった。
胸の動悸は多少鎮まったが、酔いからの頭痛は変わらない。
ふらつきに耐え、狭いリビングに目を流す。
無造作に脱ぎ散らかされた通勤着。
コンパクトなローテーブルの上には、ウィスキーのボトルとロックグラス。
帰ってきてからも飲んだのか……。―――まったく飛んでいる記憶が、呆れた言葉を引いた。
そしてグラスのかたわらには、倒れたペン立てから飛びだした数本のマジックインキ。
「どうしたものか……」
疑問は乱れた部屋に向けたものではなく―――。
すらりと伸びた両足の間の黒ずみを、恥ずかしげもなくさらしている見知らぬ女。彼女の、その頂に綺麗なピンクを乗せた形のよい胸は―――まったく上下運動をしていない。
生きていれば、話し合いでなんとか帰ってもらうことが―――と、今となっては無意味な後悔をまたわかせる自分に嫌気がさす。
とにかく……。
この不祥事がなにかのきっかけで明るみになれば、人間の尊厳を捨てて生きてきた今までの努力が水の泡になる。
再びベッドに戻り腰かけると、残りの水を飲み干し、太い息を吐いた。
まずはどこで拾ったか……だ。
頭痛をだましだまし、記憶をさかのぼらせた 。
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