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すると彼女の視線は俺から外れ、店の片隅へと流れた。
俺の顔もそれを追ってふり返る。
二脚あったテーブルの、その一つの奥。一段と暗がりになっていたコーナーに―――、
うっ!
網膜に映ったのはこっちを見つめる女の、宙に浮かんだ顔。
息がとまった。
―――が、それも数瞬で……。
浮かんでいたのではない。マスターと同じ黒一色の衣装が、同じく漆黒に塗り潰された壁面の色と同化し、たたずむ彼女の首から下をないものとして認識させていただけだった。
存在に気づかなかったのは暗がりということもあったろうが、入店したときからの意識が、ほぼ美貌のマスターだけに集中していたからではないか……。
そして俺の瞳は、ずっと気配を消していた彼女の、その顔にフォーカスを合わせていき―――。
刹那、意識が記憶の旅から今へと帰還した。
弾かれたようにベッドの枕許へふり向く。
微動だにしない美顔はまぎれもなく、
彼女だ!
この女は、あの店にいた彼女だ !
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