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コロナ渦中の闘病日記 -27,理学療法士とリハビリ-
術後4日目。いよいよ理学療法士と一緒にリハビリが開始される。
午後2時~30分程度。この時点では退院の目途が立っていなかったため、リハビリもいつまで続くか分からなかった。結局退院の直前までリハビリは続いたのだが、そのときは理学療法士が行うリハビリのイメージが沸かずちょっと緊張した。
開胸手術後、1人でベッドから起き上がったり、立ち上がったりするのさえ困難になるとは夢にも思わなかった。専門家ではないのでうまく説明できないが、心臓の周囲にある筋肉が落ちるとまともに起き上がれない。加えて縦20センチ弱切られた傷が痛くて、胸に力を入れると悲鳴をあげたくなる。
本当に困ったのが一旦起き上がると、再び横になるのが辛いことだった。
介護用ベットなのでリクライニング可能だが、ベットの半分をほぼ垂直に起こして、そっと寄りかかり「せーの!ごろん!」と、気合を入れて毎回横になっていた。看護師には辛かったら横になるときは手伝うからナースコールを押すように言われていたが、忙しそうで押す気になれなかった。
それもそのはず、新型コロナウイルスの影響でとある医療機関がコロナ患者を大幅に受入れ、その医療機関にいた患者を受け入れ、その医療機関で受け入れきれなくなった急患などを急遽受け入れていたからだ。
コロナに関する話は病棟にいれば何となく耳に入る。マスコミが取り上げる以上に医療現場は逼迫していた。そのような状況下で開胸手術を無事終えることができて治療に専念できるのはありがたいし、運が良かったとしか言いようがない。
とはいえ、想像以上に身体が思うように動かないので、このまま退院して日常生活が送れるのか不安ではあった。
理学療法士I氏が訪れた初日。
私がにベットに横たわったまま、一度起き上がると横になるのが大変と相談すると早速ベットから起き上がる訓練からはじまった。
I氏は「無理をしなくて大丈夫ですから。必ず良くなりますから心配しないでください」と根気よくリハビリの指導をしてくれた。
自力でベッドから起き上がり縁に腰かけるとI氏はベッドに寝るコツを教えてくれた。右腕と左手を使ってベッドを押し、丸太をイメージしてころんと転がる。
私は丸太、私は丸太。
ブツブツ呪文のように唱えながらコロン。
コツをつかむと自然と寝られるようになり、大分楽になった。
整形に詳しいI氏にリハビリでお世話になっている間、ここぞとばかりに自身が抱える難病・後縦靭帯骨化症と頸のヘルニアについて質問をした。
整形の分野では後縦靭帯骨化症は珍しくなく、石灰化に気がつかず別の病気で亡くなる方もいること、病状は年単位で進行するので現時点では日常生活には支障がないこと、そして首を逸らしたりしないこと。現在の医学では治療法がなく、また進行を遅らせる薬もないため気長に付き合っていくしかないようである。頸のヘルニアに関しても然り。自然と回復するため焦らずに頸を安静にさせるのが第一だ。
後縦靭帯骨化症と頸のヘルニアが見つかったのは偶然だった。頸と肩が入院前からあまりにもひどく寝ていても辛かった、頸に病巣があると困ると入院して間もなく精密検査を受けたのだ。病巣が無かったのが不幸中の幸いだった。もしあったら、開胸手術後に頸を開けて病巣を取り出すことになったところだった。
外科の世界はドライだ。患者がどうしたら生きられるか?最優先すべき治療はなにか?常に問い、病気が重なった場合はより重篤度が高い(私の場合は心臓)を優先して手術を行う。緊急性が高ければ高いほど即断即決で手術に進む。しかし、患者には手術を受ける受けないを含めて決定権があるはずのなのに、どこか医者任せにしている入院患者をみたときは、自分の身体なのに他人任せにするなんて…と思ったこともある。(意識がなかったり自己判断できない状態であるのは別)
内科と異なり外科はどこか殺伐としている。術後、容態が急変したり、緊急入院をして経過が落ち着いてから外科に運ばれる患者もいるため仕方ない。そのせいもあってか、他部署から出張で外科に来ているI氏は外科の雰囲気とは異なり、内科に近い方だった。
初日はベットから起き上がり、横になる訓練。2日目以降からベッドから立ち上がって歩行訓練も行った。怖がってほとんど個室から出ていなかったので(トレイと洗面台は個室に完備)リハビリを機に病棟内を歩く習慣をつけることにした。歩行訓練の間はI氏が傍について、私はのろのろ歩くのがやっとだったが、3日、4日と訓練を重ねるにつれ歩く速度も少しずつ早くなり、階段の上り下りもできるようになった。
I氏の話を聞いて術後も続けている習慣がある。
1日1個チーズを食べること。
特に女性は骨粗しょう症になりやすいためチーズを食べる習慣をつけたほうが良いとアドバイスをされたからだ。I氏も奥様とお子様2人と一緒に毎朝チーズを食べている。お勧めはカルシウムが多めに入った某食品メーカーのチーズ。骨のためだからと食べ過ぎは良くないので要注意だ。
生まれてこの方理学療法士と接したことがなかったので好奇心半分でなぜ理学療法士になったのか聞いてみた。昔から鍼療法に関心があり(何か格好いいじゃないですかと言っていた)理学療法士になると将来独立して開業することもできるので大学生の頃から目指していたのだという。意外だったのが看護師や医者は人手不足だが、理学療法士は人手が余り過ぎているとのこと。
術後に必ずお世話になるし、介護業界でも需要が高そうと思っていたので少々驚いた。
「かならず良くなりますから、ゆっくりできることからやっていきましょう」
退院した今でもI氏の一言を時々思いだす。
頭で分かっていても身体がついていかず、今でも不自由をすることはたまにある。焦ってしまうときはリハビリを思い出す。
あれだけの大手術をした後なんだから、今はできなくても、いずれできれば大丈夫!と自分に言い聞かせている。
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