ファイル1 恋心窃盗事件―怪盗プリンス爆誕―

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「うむ。アイリーン、座りなさい。実はなお前に話があってな……その」 「アイリーン、社交界デビューの日が決まったわ。あなたのお誕生(たんじょう)日月である五月、王妃様(おうひさま)主催(しゅさい)のお茶会に参加しますよ。アナタ、娘が可愛いからと、いつまでもうじうじしないでください」 「す、すまない」  冷たく父を睨む母にも、小さくなった父にも気付かず、アイリーンは()げられた言葉に(おどろ)きを(かく)せなかった。 「え!? い、嫌です。だって私、王太子(おうたいし)殿下(でんか)には興味ありません!」 「こらっ! なんてことを、アイリーン!」 「も、もっとたくさんお嬢様方がいらっしゃいますし、私一人行かなくとも……」 「アイリーン! 社交は貴族の勤めよ!」 「そうだぞ」 「でも……本を読んでる方が楽しいです」  アイリーンはそう言ったきり、(うつむ)いてしまう。  見かねた母が、ため息を吐いて口を開いた。 「アイリーン、今度貴方の好きな、【名探偵シャーリーシリーズ】の新作、それも限定版が出るそうね。今回の茶会に出たら、ご褒美(ほうび)として買ってあげましょう」 「!」  アイリーンの耳がピクリと動いた。  そして、ぱっと顔を上げてにっこり笑う。 「お母様! 私、三冊買ってほしいわ。保存用と観賞(かんしょう)用が必要なの!」 「全くこの子は……分かりました。その代わりちゃんと茶会に行くのですよ」 「もちろんです!」
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