ファイル1 恋心窃盗事件―怪盗プリンス爆誕―

5/7
前へ
/172ページ
次へ
(この芝の上で、名探偵シャーリーと怪盗(かいとう)貴族の出逢(であ)いを読んだら……最高に違いないわ)  彼女の心を読んだのだろうか、母に𠮟(しか)られてしまう。 「全くこの子は! 淑女(しゅくじょ)らしくなさいとあれほど!」 「ごめんなさい、お母様」 「……はぁ」  夫人は大きなため息を吐き、隣で見ていた夫に視線を送る。  父であるポーター侯爵は娘を見る。 「アイリーン。お顔を一目見るだけでもしてきなさい」  父、最大の譲歩(じょうほ)である。夫人は隣で「それだけ!?」と言わんばかりだが。  しかし父の内心は別のところにある。  娘は(よめ)に行くのはまだ早い。  王宮のパーティーですらそう思う父は、娘が可愛くて仕方がないのだ。 「はい! 早速(さっそく)行ってまいります!」  途端(とたん)にやる気を見せたアイリーン。  自由時間確保のために彼女は、本日最も大きな人だかりの方へと足を進めた。 (早く済ませてしまいたい)  人だかりに突入したアイリーンの心境(しんきょう)はその一言に尽きる。だがそれも、王太子殿下のご尊顔(そんがん)を見るまでの事だった。 「!」 令嬢方の隙間から垣間(かいま)見たエドガー様の姿に、数十秒彼女の呼吸は止まっていた。 「はっ!」
/172ページ

最初のコメントを投稿しよう!

15人が本棚に入れています
本棚に追加