ファイル1 恋心窃盗事件―怪盗プリンス爆誕―

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 胸を抑え、奇声を発するアイリーンに、周囲の令嬢の奇異(きい)の視線が突き刺さる。  しかし、彼女にはどうでもよかった。  何故なら声に反応したエドガー様が、こちらを見たから。  この世のものとは思えないほど美しい、まるで夜空のような瞳と目があったから。  殿下がにこり、笑いかけてくださったから。 (なんてこと!)  アイリーンは熱を持つ顔を隠すように、カーテシーをこなす。  そして熊から逃げるようにじりじり後退してから、逃げる様に周囲の令嬢に紛れて姿を消した。  両親のところまで走った彼女は、父に抱きつき赤い顔をやり過ごすことに決めた。 「アイリーン、芝生はもういいのか?」  娘の突然の行動に、困惑しつつも父は嬉しそうにして、夫人から冷たい視線を頂戴(ちょうだい)していた。 (やはりこの子に嫁入りは早かったか)  娘の頭を嬉しそうに()でる父と大人しく受け入れる娘。 一見仲睦(なかむつ)まじい様子だが、二人の決定的な食い違いに気付いたのは、一部始終を近くで見ていた夫人だけであった。 そして夫人は近く訪れる夫の悲劇を予見し、口元を扇子(せんす)で隠し笑みを浮かべる。
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