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胸を抑え、奇声を発するアイリーンに、周囲の令嬢の奇異の視線が突き刺さる。
しかし、彼女にはどうでもよかった。
何故なら声に反応したエドガー様が、こちらを見たから。
この世のものとは思えないほど美しい、まるで夜空のような瞳と目があったから。
殿下がにこり、笑いかけてくださったから。
(なんてこと!)
アイリーンは熱を持つ顔を隠すように、カーテシーをこなす。
そして熊から逃げるようにじりじり後退してから、逃げる様に周囲の令嬢に紛れて姿を消した。
両親のところまで走った彼女は、父に抱きつき赤い顔をやり過ごすことに決めた。
「アイリーン、芝生はもういいのか?」
娘の突然の行動に、困惑しつつも父は嬉しそうにして、夫人から冷たい視線を頂戴していた。
(やはりこの子に嫁入りは早かったか)
娘の頭を嬉しそうに撫でる父と大人しく受け入れる娘。
一見仲睦まじい様子だが、二人の決定的な食い違いに気付いたのは、一部始終を近くで見ていた夫人だけであった。
そして夫人は近く訪れる夫の悲劇を予見し、口元を扇子で隠し笑みを浮かべる。
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