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ファイル2 恋心窃盗事件―迷探偵令嬢爆誕―
王妃様主催のお茶会から一夜明けた朝。
アイリーンは自室をノックする音で目覚めた。
「お嬢さま。朝ですよ」
「ん~、マギー?」
幼少のころから仕えている侍女のマギーが入室してきた。
彼女はアイリーンにとって姉のような存在である。
「ふわぁ~」
彼女が朝の仕度をしてくれている横で大きなあくびをする。
「おはようございます。今日は随分大きなあくびですね。あまりお休みになれませんでしたか?」
「ん~ちょっとね。昨日の衝撃が」
「そう言えば昨日はお疲れのようでしたね。お茶会から戻ってすぐにお部屋にこもられましたし。本日はラズベリーのフレーバーティーです」
白磁にベリーの描かれたティーカップ。
アイリーンの髪と似た色味である赤みがかった紅茶は、ほんのりと甘酸っぱいさわやかな香りを漂わせている。
アイリーンにとっては、お気に入りの組み合わせだ。
しかし、彼女は少し浮かない顔で湯気立つカップを見つめている。
これはおかしいと、マギーは思った。
「アイリーン様? いかがしました?」
いつもの反応と違いすぎる主の様子に、マギーは不安を感じる。
アイリーンは、ティーカップに口を付け、ほっと一息つくと神妙な顔でマギーを呼んだ。
ごくりと、つばをのむマギー。彼女は緊張した面持ちで、アイリーンを見やる。
「昨日、気付いてしまったの……あの方の正体に。あの方は、怪盗プリンスなのよ」
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