ファイル2 恋心窃盗事件―迷探偵令嬢爆誕―

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 侯爵令嬢アイリーンは、信頼する自分の侍女であるマギーに打ち明けた。 「怪盗プリンス? プリンスとは……まさかとは思いますが、あの方とは殿下のことですか?」  こくりと頷く主を見て、マギーは嫌な予感しかしなかった。  そして、その予感は大当たりである。  アイリーンは本棚から一冊の本を取り出した。  タイトルは【名探偵シャーリーの大冒険(だいぼうけん)―怪盗貴族と犬―】  最近、(ちまた)(さわ)がせる大人気推理小説のシリーズ第一作目である。 ********************  夜はあらゆるモノを隠す。  獰猛(どうもう)な野犬も、平民街の汚れも、貴族様の悪事も。  そして、盗人(ぬすっと)さえ。  シャーリーは平民街の路地裏で、お腹を空かせてうずくまっていた。  もう3日も食事にありついていない。最後に食べたものだって、野犬を出し抜いて得たパンの欠片(かけら)だった。  いつもなら安全なところに作った隠れ家まで帰るが、それも出来ずうずくまってしまった。限界だったのだ。  孤児であるシャーリーを気に掛けるものはいない。  だからシャーリーは、目の前に何かの気配を感じたときに神様がお迎えに来たと思った。  しかし、聞こえてくるのはうなり声。  恐る恐る顔を上げたシャーリーが見たのは、(ひたい)傷跡(きずあと)のある大きな野犬。  シャーリーがパンをいただくために出し抜いたヤツだ。
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