15人が本棚に入れています
本棚に追加
侯爵令嬢アイリーンは、信頼する自分の侍女であるマギーに打ち明けた。
「怪盗プリンス? プリンスとは……まさかとは思いますが、あの方とは殿下のことですか?」
こくりと頷く主を見て、マギーは嫌な予感しかしなかった。
そして、その予感は大当たりである。
アイリーンは本棚から一冊の本を取り出した。
タイトルは【名探偵シャーリーの大冒険―怪盗貴族と犬―】
最近、巷を騒がせる大人気推理小説のシリーズ第一作目である。
********************
夜はあらゆるモノを隠す。
獰猛な野犬も、平民街の汚れも、貴族様の悪事も。
そして、盗人さえ。
シャーリーは平民街の路地裏で、お腹を空かせてうずくまっていた。
もう3日も食事にありついていない。最後に食べたものだって、野犬を出し抜いて得たパンの欠片だった。
いつもなら安全なところに作った隠れ家まで帰るが、それも出来ずうずくまってしまった。限界だったのだ。
孤児であるシャーリーを気に掛けるものはいない。
だからシャーリーは、目の前に何かの気配を感じたときに神様がお迎えに来たと思った。
しかし、聞こえてくるのはうなり声。
恐る恐る顔を上げたシャーリーが見たのは、額に傷跡のある大きな野犬。
シャーリーがパンをいただくために出し抜いたヤツだ。
最初のコメントを投稿しよう!