ファイル1 恋心窃盗事件―怪盗プリンス爆誕―

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ファイル1 恋心窃盗事件―怪盗プリンス爆誕―

 侯爵(こうしゃく)令嬢アイリーン・ポーターの楽しみは、読書である。  お気に入りの猫足テーブル、ポットから(ただよ)うダージリンの香り。  その中でめくるめく小説の世界に飛び込むのは、彼女にとって至福(しふく)の時間だ。 「はぁ~。今日も【名探偵シャーリー】は素晴らしいわ! 人の表情、仕草(しぐさ)、足跡——様々なものから真実という名の宝石を探し出す……あ~素敵!」  キラキラとした瞳で彼女は本を抱きしめる。 「私もいつか、シャーリーみたいな名探偵に!」  アイリーンが気持ちよく決意を固めているところ、彼女付きの侍女マギーが割って入る。 「お嬢様(じょうさま)、もうすぐ旦那様と奥様がいらっしゃります」 「そうだったわね。それにしても何かしら? そろって私のお部屋まで来るなんて」 「さぁ? 珍しいことではありますね……っと、お嬢様、来られました」  マギーがそう言った数秒後、コンコンとドアをノックする音が聞こえ、次いで父の声がした。 「アイリーン。入ってもいいか?」 「どうぞ」  入ってきたのは、アイリーンと同じ赤い髪に鳶色(とびいろ)の目の紳士と、ライトブラウンの美しい髪に緑の(ひとみ)の女性。  アイリーンは立ち上がって二人に礼をする。
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