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それから彼らは植物や動物を観察し、図鑑と照らし合わせた。
大魔獣の活動範囲内でありながらも、外界との境界地までやってくるのは数年に一度のタイミングのみ。つまりほとんど魔の手は及ばないし、禁域と定義した人間がやってくることもない。
故にこの辺りは動物たちにとって、自然界のユートピアであった。
そしてそんな森を進むにつれて、リヴィングストーンはある予感のが確信へと変わっていくのを感じた。
「あるな……この最奥部に、俺たちの求めるものが」
「…………」
アンナは、彼が何を言いたいのか、何を感じているのかわかっている。そしてずっと興奮状態であることもわかっている。
「黄金の叡智は実在する。まるで、俺たちを呼んでいるかのようだ」
この世界一危険な場所での彼の言動は、少々浮かれすぎていると、アンナは危惧した。しかし長年の夢が叶った彼へ水を差すのも悪いと思い、彼女は黙って聞き流すことにした。
それから先へ進む彼らの元へ、何体かの魔物が現れた。
外の世界に比べて強力な魔力を保持しており、より強力であるという情報は正しいが、戦士を生業としていた彼らの敵ではなかった。
それから数時間進むと、彼らは川沿いへたどり着いた。ここでアンナは荷物を降ろす。
「この辺でキャンプにしましょう」
「なんだ? まだ明るいぞ。もっと行ける」
「何言ってんのよ。ロスト・キングダムに昼も夜もないって言ってるじゃない。
私の時計だと、もう7時間は経過しているわ」
「でもまだみんな体力はあるよな?」
「みんなとっくにお腹は減ってるのよ。
それに急ぐ必要なんてないでしょ? どっちみち明日には沼地に着く計算なんだから。休憩がてら、ゆっくり周辺の調査でもしましょう?」
「んー……」
リヴィンストーンは進行方向を見たまま、その場で突っ立っている。
「不服そうね。
忘れてるみたいだからあえて言うけど、今回の探索の目的には、生態系の調査も含まれてるのよ。
昼と夜の区別のないこの特殊な環境で、動植物がどんな風に……」
「あー、わかったわかった。細かいことはみんなに任せるから。とりあえずキャンプの準備でも始めるか。確かに腹は減ったしな」
と、彼はここでようやく荷物を降ろした。
「全く……」
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