夕暮れ時のある場所で

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夕暮れ時のある場所で

「ねぇ、アナタは覚えてる?」 「初めて出会ったあの場所。よく晴れていたよね」 「そう、ちょうど3年前よ」 「あの場所で私は恋に落ちたの」 「それからは自分の気持ちが抑えられなかった」 「何度も何度もアピールしちゃったよね」 「そうして、やっとアナタはこっちを向いてくれた」 「思い出しただけで笑っちゃう。だってあの時のアナタ、とっても可笑しな顔してたもの」 「その日を境に、いろんな所へ行ったよね」 「おしゃれなカフェで同じものを食べたり」 「海に行ったり」 「同じ映画を観たり」 「北海道旅行もとっても楽しかった」 「………」 「……もっと一緒の思い出を作りたかったな」 「もっともっと遠くへ行きたかった」 「でも、もう出来ないね」 「………ふふっ」 「でもアナタがいけないのよ」 「私だけを見てくれていれば良かったのに」 「私とは喋ってもくれなかったくせに」 「私は隣にいさせてくれなかったくせに」 「私には触れてくれなかったくせに」 「私にはあんな優しい顔は見せてくれなかった」 「そこの女には全部してあげていたね」 「そこに転がってる胴体の持ち主に」 「顔は見たくなかったから、先に焼いちゃったの」 「私ずーっと見てたんだから」 「だから、ちゃんと全部知ってるの」 「アナタが、私を認識していないことも」 「名前すら知らなかったことも」 「安心して、怒ってはいないのよ」 「だってもうアナタは、私から離れられないんだから」 「そんな身体じゃ逃げられないもんね」 「ふふっ……ふふふ」 「きっともう、なんにも出来ないだろうから」 「ちゃんと私が、全部お世話してあげる」 「ドキドキしちゃうね」 「これからはずっと一緒だよ……」    私は虚な表情の彼にそっと顔を近付ける。初めてのキスは、とても冷たい口付けだった。
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