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「『人魚姫』って悲しい話だったよ」
次の日ベンチに座り、僕は買ったモナカを半分に割っていつものように彼女に手渡した。
渡したタイミングで彼女の指先が一瞬だけ僕の手に触れる。触れた瞬間、火傷したような刹那的な痛みが走った。
彼女の手は、氷のように冷たかった。氷に直で触った時に冷たくて長時間持てないと、小さい時親に喚いていて怒られたことがあるが、その感覚が蘇る。
「そうなの?」
彼女は、僕を見つめて、そのあと少し考え込むようにして宙を睨んだ。
僕は、打ち寄せてくる波の音をバックグラウンドミュージックにしながら、調べたあらすじを軽く説明し、自分が書いていた脚本は人魚姫が打ち上がるところから始まるらしいという話をした。
彼女は興味深そうに僕の話を聞いていたが、目を伏せて手にしたアイスを袋ごと膝に置いた。
「あなたの脚本の結末は分からないままなのね」
「そうだね」
「人魚姫、あなたの脚本の中では幸せになってるといいわね」
彼女は、独り言のように小さく呟いた。
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