0人が本棚に入れています
本棚に追加
「ねぇ、覚えてる?『人魚姫』の話の結末」
その日は7月の終わりだった。
遠くで蝉がしきりに鳴いている声が聞こえる。
僕が海沿いのベンチに座って、ワイシャツの袖を捲っていると、横にいる麦わら帽子をかぶった彼女が突然興味深そうに尋ねてきた。
「人魚姫かぁ。アンデルセン童話だっけ。ディズニーではアリエルと王子様が幸せに暮らしてるようなイメージがあるけど…」
「それじゃなくて、前にあなたが話してくれたじゃない。高校生で演劇をした時に、『人魚姫』をやったって」
僕の高校は、文化祭で必ず3年生が演劇をやるという伝統がある。僕のクラスは『人魚姫』をやった。ただ元々ある話の通りではない。演劇部に所属していた僕と、文芸部に所属していた数名で、台本を一から作成し、パロディみたいな形式にした。
「ただ、10年も前の話だからね。ほとんど記憶にないよ。クラスで一番可愛い子に人魚姫役をやってもらったことくらいしか覚えてないなぁ。それがどうかした?」
「なんか急に気になっちゃって」
彼女は、僕の話を聞いて愉快そうに笑うと、麦わら帽子を深くかぶり直し、真っ直ぐ海の方を見た。
海は、太陽の光を反射して、水面を細かく輝かせていた。
最初のコメントを投稿しよう!