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カチャっと、洗面室のカギを掛けて、Tシャツを脱いだ。先に水で手洗いをさせてもらって、絞って水切りしておこう。
ドアの側に近付き、なんとなく外の気配を探った、静かなのを確認すると言葉通りにもう寝たんだなと思った。
デニムと下着を脱いで、バスルームに行き、カランを上げると気持ちの良い温度のお湯が肌を滑る。ボディーソープを借りて両手で泡立て体を洗う。
何となく匂いが移っていたら嫌だなと、髪の毛を束ねていた黒いヘアゴムを外して、髪も洗った。
バスタオルを借りて、下着を身に着ける。
悪いかなと思ったけど、勝手に引き出しを開けてドライヤーを見つけた。
髪を乾かし、整えるとスッキリして、コードをまとめて引き出しに仕舞うと、さっき使って良いと言っていたTシャツを借りて、デニムのパンツを履き直した。
このまま、帰ってしまおうかなと思ったけど、もしも、寝ている間にまた嘔吐をしたらそのまま窒息死してしまう人もいる。心配になって、寝室と思われるドアをそっと開けた。
脱ぎ散らかした服が見えて、スーツだけでもとハンガーにかける。
みさきさんの様子を見たら落ち着いて大丈夫そうだ。
もう帰ろうと思った時、
「ん、んん……」と寝苦しそうな声が聞こえて、ベッドの横に寄り様子を伺い見ると、目元からスッと一筋の涙が流れていた。
チェストの上にあるテッシュを取り涙を拭う。
こんなにカンペキそうな人でも酔っぱらって、涙を流す日があるんだな。
できる事なら、人懐こいワンコのような笑顔を見たいと思った。
「おやすみなさい。いい夢が見れますように」
眠っている、みさきさんの唇にそっとキスを落とした。
やだ、私ったら、初対面の男の人に対して何を考えているんだろう。
もう帰ろう。明日は、引っ越しだし、これからは隣人さんになるんだ。
気まずい思いもしたくない。
手にしていたテッシュペーパーを丸めてゴミ箱に投げた。
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