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「佐藤さん、自分で何を言っているのか、わかっていますか?」
エレベーターのパネルに向かっていた三崎先生が振り返えり、私の背にある壁に手をついた。ダークブラウンの瞳に囚われ、右手が私の顎を捕まえる。
射貫くようなその視線に心臓が大きく跳ねる。
顔が一段と近くなり、熱い唇が重なった。三崎先生の舌が私の唇を割り入り、口腔内に差し込まれる。歯列を探るように舐められ、ゾクゾクと背中に熱が走る。狭いエレベーターの中にクチュクチュとリップ音が響いて、甘い息が上がった。
「ん……んぅ」
まさか、三崎先生からこんなキスをされるんなんて……。
チンッと、エレベーターが5階の到着を告げる。
素っ気ない程にスッと、唇から熱が離れて切なさを感じた。
「降りますよ」
三崎先生が捕らえていた私を離し、背をむけてエレベーターから先に降り、廊下を歩き出して行ってしまう。
今まで、エレベーターを先に降りて行くなんて三崎先生はしなかった。
いつだって、気を使ってくれて優しかったのに……。
私、調子に乗って三崎先生を怒らせてしまったんだ。
どうしよう……。
三崎先生に嫌われたと思うと怖くて仕方ない。
早く謝らないと思うのに最初の一歩が出なくて、距離が離れて行く背中を見つめていた。
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