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Side 三崎
マンションのエレベーターに乗りこむと佐藤さんが言った。
「三崎先生は、優しすぎます!」
女性に優しくしてクレームをもらったのは、初めてだった。
本当に何を言い出すかわからないビックリ箱みたいな人だな。
それならお返しにと、
「じゃ、佐藤さんには、これから冷たくするからそれでいいかな?」
「えっ?」
冷たくすると言ったら凄く驚いている。反応が素直でおかしくなってしまい、思わずクックッと笑いが漏れてしまった。
「あ、先生、人の事をからかってヒドイ」
ムゥと頬が膨らんでいるのも本人は気が付いていないのだろう。
「優しいのがダメらしいからしょうがないね」
とニヤリと笑った。
すると、よほど悔しかったのか、俺の肩に手を掛けて耳元でささやく。
「三崎先生が私に冷たくするなら、私が三崎先生を熱くしてみせます」
耳にゾクリと声が響いた。
こんな密室で、煽ることを言って自分がどんなに危険な事をしているのか、わかっていないな。
「佐藤さん、自分で何を言っているのか、わかっていますか?」
振り返り、佐藤さんの背にある壁に手をつき腕の中に捕らえると、濡れたような黒い瞳と視線が絡んだ。
瞬間、男の本能に火が付く。顎を右手で掴み、貪るように唇を食み、口腔内に舌を入れ、歯列をなぞった。
狭いエレベーターの中に淫猥な水音が響く。
「ん……んぅ」
佐藤さんの甘い声が響いた。
チンッと、エレベーターが5階の到着を告げる。
その音にハッして、佐藤さんから離れた。
そして、わざと冷たく接する。
「降りますよ」
エレベータードアを止め置くことなく廊下に足を進め、504号室の前まで来たところで振り返った。
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