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「麻里奈、結婚するんだって」
その一言は、私の思考の一切の活動を停止させるには十分すぎる言葉だった。
「そうなの」
心臓は冷たい手で鷲掴みされたような心地がした。それでも、態度だけは平静を保ってはいられる自分が不思議だった。
「華子、結構仲良くしてたよね? もしかして、まだ聞いてなかった?」
それでも、目の前にいる友人、七恵は私の僅かな変化に気がついたらしく、気を遣ったように聞いてきた。
「そうだね、今聞いてびっくりした」
おどけたようにそう言うと、七恵は安堵したように顔を綻ばせ、それから、「私も付き合ってる人がいるなんて聞いてなかったから驚いた」と小さく呟いた。短い沈黙が流れる。
「まあ、でも、おめでたいことだからね」
「そうだね」
そのようなことを話したいわけではないと、空気感で分かった。それをお互いが認識しているということも。女子高生の頃の気安さで開けっ広げに何でも話すことができたら、どんなに気楽だろうか。しかし、今の私達は年甲斐もなく他人の幸せをこき下ろすような無邪気な残酷さは持ち合わせてはいなかった。
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