わがままな君には白いベールがよく似合う

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 ランチを食べすぎたせいで、スーツのウエストの部分が少しだけ苦しい。昼休みのオフィスはよれたような雰囲気のなかでも、空気感が少しだけ弾んでいるようで、私はそれが嫌いではない。きっちりとしたタイムスケジュールのなか、私達は仕事をこなし、休憩時間になると束の間の休息を取り、そして、仕事が終われば各々の帰るべき場所へ帰って行く。社会人になって五年、二十七歳にもなると、この繰り返しにはとうに慣れが出てくる。 「経理部の杉本さん、結婚するんですって」 「そうなの? 仕事はどうするのかしら」 「妊娠もしてるらしくって寿退社ですって。いいわよねぇ」  そんな会話を聞くとき、私の胸の奥で小さく波が立つ。誰々さんが結婚した、妊娠した。それは顔見知りであったり、なかったりするのだが、それでも私のなかのさざ波は静かに存在感を示す。 「お疲れ様でしたー!」 「おおー。華子ちゃんお疲れ」  私の少しだけ張った声に周囲の人が反応し、一旦会話は途切れる。さざ波が大きくなってしまう前に、いつも私は速やかにその場を去る。そうすることで、私は、自分のなかの平穏を保っていられることができる。  しかし、麻里奈に触発されてだろう。私は今回に限っては自分の感情に対処することができなかった。
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