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それからしばらくして、麻里奈が佐野さんの彼氏を取ったという噂が学内を占めた。私と七恵はその話を聞いたとき、思わず顔を見合わせた。麻里奈は当然のことながら、女子達の反感を買った。泣く佐野さんを慰めている様子の友人を見かけたこともある。私達は相変わらず行動を共にしていたが、不自然なことにもその話題について触れることはなかった。私も七恵も遠慮していたのだと思う。
それから、高校を卒業し麻里奈だけが地元を離れることになったため、私達は自然と会わなくなっていった。七恵は私と同じく地元に残っていたので、定期的に会ってはいたが、麻里奈の話題が私達の間に持ち出されることはなかった。
麻里奈は私達の高校時代の記憶のなかで、鮮明に存在感を示している。それでも、麻里奈を思い出したくないのは、自分にはないものを持っているからだった。小さな顔、大きな目に、きゅっと上がった睫毛、形のいい鼻筋、血色のいい唇、男女問わずはっとさせられるような出で立ち。
高校を出て一回目の同窓会で、麻里奈が芸能活動をしているということを人づてに聞いた。そのときも私の心のなかのさざ波は存在感を示していなくとも、確かにあった。
「麻里奈って結婚できなさそうだよね」
再会を喜び合う喧騒のなか、私は七恵と二人になるのを見計らってそう言った。私が角を立てずに言うことができる最大限の悪口だった。麻里奈は欠席らしくこの場に来ることはない。そのことが私を苛立たせてもいた。麻里奈のなかではもう過去となった私達がこの場に立っているような気がしてならなかった。
「そうだねえ」
七恵は私の悪意がこもった言葉について同意しているのか、いないのかわからない様子でうなずいた。
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