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第一章 通信指令
北東北の矢留市消防本部通信指令室内に、重要着信ランプ、通称重着ランプが電子音とともに点灯した。
室内の空気が瞬間的に強張る。
ランプは円筒で四層に色分けされている。上から赤、青、黄色、白に分けられていて、それぞれ火災、救急、救助、その他災害の意味を表す。
受電した内容により勤務員が判断し、それぞれの災害種別のランプを点灯させることになっている。今点灯したランプの色は白であった。
白は、災害として扱うべきかを迷う場合が多く、ある意味厄介な代物である。
通信指令課主任の皆川孝則は、ランプを点灯させた一一九番受付勤務員、新屋夏雄が座っている受付台のモニタースイッチを素早く押した。
皆川の主な役割は、勤務員のバックアップである。大概の通報電話は、火災だろうが救急だろうが、手順に従って進めていけば、滞ることはない。しかし万が一ということがある。皆川は、その万が一の時のために各通報電話をモニターするのである。
やはり簡単には済まなそうな雰囲気を感じた。
「おいっ、なして来れねえんだよっ、こっちは急いでんだっ、救急車、早くよごせってばよっ」
相手の声がレシーバーを伝い、わあんと頭に飛び込んできた。皆川は思わずレシーバーを耳から遠ざける。見ると、新屋も同じくレシーバーを外している。壁の時計を見やれば、日付が変わろうとしていた。
「あ、あの、ですね」
新屋の言葉は歯切れが悪い。皆川はモニターしながら(頑張れ)と呟く。
消防の組織は、市町村単位で運営されるのが基本である。なので、市内からの一一九番通報は、すべてここに入電する。
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