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住民のために働く救急隊が、過労で倒れたなどとなったら、本末転倒である。ほとんどが軽傷な傷病者なのに、現場に向かう救急隊員が倒れた、過労死したなどという事態は、絶対に避けなければならない。
実際、救急要請のうちほぼ半数は「軽症」で、入院の必要がなかったという報告が前年の消防白書で示されているのだとも主張した。
この意見には、誰もが首肯した。
越後谷は続けた。
対策として考えられるのは、出動件数を減らすことである。
一一九番通報を精査し、本当に緊急な通報なのだとこちらが判断しない限り、救急隊は運用しないことが肝要なのだと言い切った。
誰も反対する者はいなかった。通報を精査するのは通信指令課の勤務員であり、それは限られた職員になるということだ。火の粉は自分に振りかからなければよいのだ。
同席していた三浦副本部長は、越後谷の母校高清水工業高校ラグビー部のОB会会長であり、越後谷の後輩である。先輩の意見を無下にひっくり返すことはあるまいと越後谷が計算したのか、副本部長が反対しないなら周囲も忖度するだろうと見込んだのかはわからない。
司会が三浦副本部長に「ご意見ありますか」と訊いた。
副本部長は苦虫をかみつぶしたような顔で「うむ」と小さく唸ったあと、ちょっと間をおいて「実際に対応する現場としてはどう受け止めているのか」と言った。
司会をしていた指令課長が「わが意を得たり」とばかりに挙手した。
「これは非常に難しいことと思います。受付勤務員の負担は尋常じゃない。通報が重なった場合は、さばけない事態にもなりかねませんよ。それに、苦しんで通報しているのに、見もしないで放っとくのか、見殺しにするのかと言われかねない」
「人員を増やせばいいじゃないか」
越後谷は簡単に言う。
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