第一章 通信指令

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「無理でしょう、ただでさえ人員が足りないといわれているんだ、職員だって高齢化している、指令室員としての適正があり、機器操作ができる職員は限られる。誰でもいいというわけにはいかない」 「やらせてもいないのにできないとは情けない。とにかくやってみたらどうだい。案外できるかもよ。他に救急隊の労務を軽減できる策があるのなら教えてくださいよ」  現場のことは知るものか、とにかくやれという態度だった。  他の出席者も、自分には直接降りかかってこない事案だということで、意見はしなかった。  結局、他にこれといった代替案も出ず、消防本部は越後谷の案を採択することになった。  越後谷は「ざまああみろ」といわんばかりの得意顔で会議室を出てきたらしい。  逆に、指令課長は、苦虫を噛み潰したような顔で出てきた。  このことは、年明け早々に運用される運びになった。  運用が決まり、越後谷は、周囲に「これで俺は本部に戻れる」と豪語していたという。越後谷は、自分の組織内での地位向上のために、常に何かを画策しているらしかった。  実際、越後谷は、翌年一月、本部に異動した。定期の人事異動ではない。特例的なものである。  言い出しっぺは責任をとれということなのだろう、救急件数削減策を運用するにあたり、越後谷は通信指令課に課長として異動することになった。
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