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第三章 大義名分
皆川と新屋は受付台を離れ、指令室隣接の〈インターバル〉と呼ばれる小部屋へ入った。小休止である。入れ代わりで、小松田良晴消防司令補と河辺鉄人消防士長が受付指令の勤務に入る。
常に緊張を強いられる業務の性質上、班員もローテーションを組み適宜休憩を取るようになっている。勤務員の集中力を持続させるためだ。
「コーヒー、飲みますか」
ソファに身体を沈めた皆川に、新屋が訊いた。戸棚の脇に置かれたカラーボックスには、インスタントコーヒーのビンが置かれている。
「ああ、わるいな」
曇りガラスの小さな窓の向こうは真っ暗。四隅には雪が張り付いている。予報では、今頃の外気温はマイナス三度である。
指令室の勤務班は四つに分かれ、それぞれ日勤、夜勤、非番、週休の順でシフトする四交代制で行われている。そしてこれとは別に、当務責任者は指令課課長と係長二名が三交代制で勤務している。いつも丸ごと同じメンバーだと、緊張感も薄れてしまうからである。
皆川たちの勤務班は、受付兼管制員が二人、後方支援の主任が二人の計四名である。それに当務責任者である係長または課長が別サイクルで一名加わり、人口約三十万人の矢留市民からの一一九番通報を、五名でカバーしている。
皆川は指令課勤務六年目である。小松田は五年目で河辺は四年目。ここは経験がものをいう年功序列の世界で、一番永い経験をもつ皆川は班の統括を命ぜられている。消防隊員としての階級と、事務作業時における肩書は使い分けられている。〈消防司令補〉という階級は、消防隊では隊長、事務職的には〈主任〉という扱いである。
「主任、寒くないっすか、その頭」新屋はポットの脇にコーヒーカップを二つ並べた。
「これか」皆川は坊主頭を撫でた。
「渋いすけど、冬もずっとそのままとは思わなかったす」
「もう三年になる。慣れたよ」
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