第一章 通信指令

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 勤務員の受付台には、受電した時に通報場所が表示される画面と、通報場所付近の地図を表示する画面、指令されるべき直近の出動隊を表示する画面、現在出動中の隊が表示される画面の四つが設置されている。  勤務員は、一一九番通報を受けながら災害種別を判断し、画面を確認し、聞き取った内容を記入し、機器操作をし、聞き取り終了後はすぐに当該災害現場直近の消防署所に出動指令を発するという作業を、迅速的確に、滞りなく行わねばならない。 「お話になった内容ですと、緊急性はないと思われるのです。ですから」  皆川は、目を閉じ、レシーバーから聞こえてくる声に集中した。  昨今は、救急隊をタクシー代わりに使おうとする輩が目立っている。今日は病院で検査の日だから来てほしいとか、行きたい病院が遠いから来てほしいという類のものだ。  救急を要請する側の判断基準、あるいは救急という言葉の意味が理解されていないとしか思えない。  電話口の主は、声を荒げていた。 「ですからなんだよ、え? 早く来てくれって言ってるじゃんか。早く病院に行きてえんだよ、だから電話してるんだって、わかんねえのかよ、救急車、早くよこせってばよぉ」  皆川は嘆息する。  面倒なことになる前に救急車を向かわせた方が良いかもしれない。  どうする、新屋、と皆川は、腰を浮かせて新屋の様子をうかがう。  しかし、後ろ姿だけではどんな表情をしているのか、わからない。
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