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新屋が振り向いた。援護を求めている。皆川は新屋の顔を見て頷くと「わかった」と手を上げ合図を送り《割込》ボタンを押した。これで新屋の扱っている回線に割り込んで会話ができる。
「すみません、電話変わります。わたしは皆川といいますが」
「あ? 誰だおめえ」
違う声の持ち主が入ってきたことで、相手は一瞬ひるんだ。皆川は間髪を入れずに言葉をつなげる。
「いま電話であなたと話していた者の上司です。只今近くの救急隊は出払っています。そちらに行くまでには時間がかかる状態です。ご理解ください」
「だからよう、いつでもいいって言ってるだろうが。空いたらでいいって言ってるんだよっ」
「予約はできません」
「なしてだよ」
「救急車はタクシーではないからです」
「なにぃ、来れねえって言うのかよ、だったらどうして電話を代わった」
「救急車は行けませんということを説明するためです」
「おい、おめえ、この野郎、ただじゃあ済まねえからな」
「どう済まないのですか」
「うるせえ、てめえ、クビぃ洗って待ってろよ」
「脅すのですか、恫喝するのですね」
「脅した? ドウカツ? おい、俺がいつ脅したよ」
語調が変わった。気勢は削がれたようだ。
「ただでは済まないと今言いました」ひと呼吸おいて「あなたは誰ですか、こちらは名乗りました。人に名前を聞くときは自分も名乗るのが礼儀ではないですか」
強い口調で言った。新屋が不安げな表情で振り向いた。
「うるせえよ」
「再度言いますが、これは緊急の電話です。あなたがこうして長々と話している間、この電話回線は塞がっているのです。他に緊急で電話したい方がいても話せません。人の命に関わる場合もあるのです。困るのです。ご意見があるのでしたら、日中広報担当へお電話ください」
相手は「うるせえバカヤロウ」と捨て台詞を残し、ぶつりと電話を切った。
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