第一章 通信指令

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「はあ。通報を受けたらそのまま隊を指定して指令する、ではダメなんすかねえ」新屋は落胆したことを強調するように、これ見よがしな大きいため息をついた。  毎年増大し続ける救急出動件数であるが、実態は、入院の必要のない軽症がほとんどである。このことに鑑み、生命の危機を迎えて救急要請をしてくる人々のために、矢留市消防本部では、一一九番通報を受けてもそのまま出動指令をせず、内容を精査してから救急車やポンプ車を出動させる体制へと変更したのである。  この一一九番通報に対する出動指令の抑制は、実は、当時、消防署の警防課課長だった越後谷三成(えちごやみつなり)が提案したものだ。  それは、昨年秋、各消防署の副所長と警防課長が出席して行われる警防体制運営会議の席でのことだった。  会議は月一回開催され、矢留市消防本部内の災害状況、警防体制等について意見交換する場になっている。  この時、司会は指令課課長、皆川は議事録担当で出席していた。  ひととおり議題の検討がなされ、あと何か連絡事項などありますかという段になったところで、越後谷が手を挙げた。常人の倍近い幅を持つ体格なので、すぐに皆の視線を集めた。  提案した議題は、一一九番通報による救急要請は増加する一方である。このままでは、救急行政は立ちいかなくなってしまうだろう、救急隊員の負担軽減がなされないかという内容のものであった。  現在、救急隊員は、休む間もなく出動にかり出されているのが現状である。  その結果、隊員は疲弊し、十分な活動ができなくなってしまうおそれがある。  ポンプ隊員らを応援要員として運用しているが、それすら限界がある。出動が本来の火災対応と重なった場合、どうするのかという問題が生じる。
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