セクサロイドと作られて

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セクサロイドと作られて

 今でこそ私は人間だが、昨晩までは性的奉仕用(セクサロイド)に分類されるロボットだった。クローン技術で生成された「生身の人体部品(バイオロジカルパーツ)」を使い、新機軸の設計思想に基づいて描かれた設計図どおりに、一流の職人の手で組み立てられた最先端(ハイエンド)モデルだ。  私は製造時に、身体制御系AIと情報伝達ケーブル、外部接続用のチップを埋め込まれた。それらの点を除けば、私は人間とまったく同じ身体構造を持っていた。生まれつきの人間が後からチップを埋め込んだり、身体の欠損を生体部品で補ったりすることを考えると、彼我の違いは形作られた場所が胎内か工場かの相違でしかないのだ。  私はトーコの所有物だった。彼女の言葉を借りれば、持て余し気味の性的欲求を解消するために、マンションのワンフロアを買えるほどの金額で購入されたのだ。  ロボットの私からみた彼女の身体的特徴は、統計学的に人間の女性として平凡――つまり十人並み――であった。一方で、彼女の社会的地位および収入は極めて優位――つまりセレブリティ――だった。私を手に入れなくとも、言い寄る男は引きも切らなかったはずだ。  トーコはおそらく、現実にはいないような男性を欲していたのだろう。例えばおとぎ話の王子様や、恋愛シミュレーションゲームの登場人物だ。彼らはけっして相手を支配しようとせず、傷つけることもなく、ただ愛のみを与えてくれる。現実にはあり得ないと知った上で、彼女はそういう恋愛の延長線上にある、性行為を望んだのではないだろうか。  夢みがちではあるが、トーコは現実から離れて物事を考えるタイプではなかった。彼女の理想とする物語やゲームの登場人物は、人ではないと知っていた。だからこそ人ではない存在、有機セクサロイドを発注したのだ。
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