手向けの言葉を

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「ねぇ、あの日私に言ってくれたこと、覚えてる?」  卒業式を終え、一人また一人と教室を出て行く人が増えてきた頃、私は彼女をある場所へ連れ出した。  各学年の教室が並ぶ本棟と、図書室と準備室――という名だけの空き教室――が並ぶ西棟へ繋がる渡り廊下だ。本当は図書室の中が良かったけれど、残念ながら今日は西棟は施錠されていて入れなかった。  しかし、逆にここへ来る人物はいないのだとも考えられるので、誰かにこの場面を目撃される可能性は限りなく低かった。だからと言って、思い出話に花を咲かせて長居する気はこれっぽっちもないのだけれど。 「あの日……とは、いつだっけ?」  突然連れ出されたことに抗議の声が上がることはなく、彼女から返ってきたのは私の質問に対する質問だった。目を閉じて腕を組みながら唸る彼女の姿からは、必死に思い出そうとしているのが伝わってくる。彼女が思い出せないことは実際少し残念だが、それは仕方ないのだ。私たちが話すのは今日が二度目などということはなく、もっと前からたくさんのことを話してきたのだから。 「覚えてない? 文化祭最終日のこと」  このままでは無駄に時間が過ぎていくだけなので、一度目で察してほしかった気持ちを飲み込んで彼女の質問に答えた。彼女が思い出さないままでは、この計画は達成されない。 「文化祭……あ! もしかして……!?」  満面の笑みと輝く瞳をこちらへ向けた彼女の様子から、思い出してくれたのだと理解する。これで、やっとスタートラインに立った。 「――そうなの。だから、協力してくれる?」
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